ブーケ

ブーケトス

(何て馬鹿なことをしたんだろう……)

私は病院のベッドの上で後悔していた。じっと天井を見つめる。

(今日は、マユミの大事な日だったのに)

今日は、親友のマユミの結婚式だった。式も無事に済んだ後、マユミのブーケトスが始まった。花嫁が後ろ向きに投げたブーケを拾った人が、次の花嫁になれると言われている。

私は、どうしてもマユミのブーケが欲しかった。ブーケがマユミの手を離れたとたん、私はブーケ目がけて駆け寄った。ブーケは思ったより手前に落ちていった。それに手を伸ばした瞬間、慣れないヒールを履いていたせいか、バランスを崩して頭から床に倒れていった。そして額から大量に出血し、病院に運ばれた。

病室のドアが開いた。マユミだった。

「ユカリ、大丈夫?」

わざわざ病院にまで来てくれたようだ。大事な日だと言うのに。

「マユミ、ごめんね。大事な結婚式を台無しにして」

「そんなこと気にしなくていいのよ。それより、傷の方は大丈夫なの?」

「うん、出血はひどかったけど傷は大したことないって。痕も残らないみたい」

「良かった。嫁入り前の顔に傷が残ったら大変だと思っていたの」

「それより、そろそろ新婚旅行に出発する時間じゃないの? 大丈夫?」

「うん、出発までもう少し時間があるから。旅行に行く前にどうしてもユカリに会いたくて……。これ、受け取って欲しいの」

マユミがブーケを差し出してきた。

「え、いいの? 私が貰っても」

「もちろん。私も是非ユカリに貰って欲しいの。あんな騒動になったから誰も拾ってくれなかったし」

「ありがとう……」

私は、マユミのブーケを受け取った。

「次はユカリの番よ。頑張ってね。――それじゃあ、私そろそろ行くね」

「うん、本当にありがとう」

あまり時間がないのだろう。マユミは急ぐように出て行った。

目頭が熱くなる。やっぱりマユミは私の親友だ。最高の親友だ。そう思いながらブーケを握りしめた。

『次はユカリの番よ』

マユミの言葉が頭の中でこだまする。

二年後、私は結婚披露宴会場にいた。花嫁が投げたブーケを拾った人が次の花嫁になれる。あの話は本当だったようだ。

私は友人代表としてスピーチをした。

「マユミ。今度こそ幸せになってね」

あのとき、誰も拾わなかったブーケ。それを拾い上げたのは、花嫁のマユミだったのだから。