ちょこっとのヒマツブシ/ショートショート略して「ちょこヒマ」

ユーモアショートショートはいかがですか?過去作品のリライトから新作まで色とりどりのショートストーリーをお届けします。

ショートショートストーリー「百篇の小説」

time 2015/12/25

ショートショートストーリー「百篇の小説」

百篇の小説

 

「そろそろ、これをお前に渡す時期だな」

 父親がそう言って、僕に古い万年筆を差し出した。

「これは何?」

「見ての通り、万年筆だ。でもただの万年筆じゃないぞ。凄い力を持っている」

「凄い力?」

「そうだ。お父さんもこの万年筆のおかげで、こんなに幸せになれたんだ。本当に凄いぞ」

「うーん、ただの万年筆にしか見えないけど」

「とにかく、お父さんの言うことを信じろ。この万年筆を枕元に置いて寝るんだ。そうしたら分かる」

 父は、冗談など言うタイプではない。本当に何かあるのだろう。父を幸せにした凄い力が。僕は言われたとおり、万年筆を枕元に置いて寝ることにした。

―――――

 夢の中に見たことのないお爺さんが現れた。髪の毛はなく、その代わり白い髭が異様に長い。白い着物を着て杖を持っている、まるで仙人のような風貌。

「あなたは誰ですか?」

 僕はお爺さんに聞いた。

「万年筆の精じゃよ」

「万年筆の精?」

「お前さん。小説を百篇書きなさい」

「小説を百篇? 書いたらどうなるの?」

「それは、書いてからのお楽しみじゃ。じゃあ約束じゃよ。分かっておるな、百篇じゃよ」

 それだけ言うと、お爺さんはふっと消えた。

―――――

 次の日の朝、目覚めてすぐ、この夢のことが頭に浮かんだ。多分お父さんが言ってたのはこのことだろう。ということは、約束通り百篇の小説を書けば何かいいことがある。幸せになれる何かが。
 しかし、小説百篇というのは大変だ。簡単に書けるものではない。

(そう言えばあのお爺さん、小説の長さについては何も言ってなかったな。よし、短い小説にしちゃえ)

 長編百篇など書けるものではない。僕は超短編と言うかショートショートと言うか、とにかくそういう極短い小説を書くことにした。
 書き始めると、これが楽しい。だんだん小説を書くことにはまっていった。

(短い小説の場合、ハッピーエンドじゃない方が面白い気がするな)

 これが僕の好みなんだろう。僕の書く小説は、ブラックネタや不幸オチばかりだった。そして、順調に作品数は増えていった。
 半年後、遂に百作目が完成した。僕は万年筆を取り出し枕元に置いた。

―――――

 夢に再びあのお爺さんが現れた。

「百作、完成したようじゃのう」

「はい。今日百作目を書き上げました」

 お父さんを幸せにした凄い力って何だろう。早く知りたい。期待が大きすぎるのか、声が少し震えている。

「では、百篇の中から一つ選べ。その小説の主人公と同じことがお前さんに起こるようにしてやろう」

「え?」

「どうした。早く選べ。百篇もあるんだ。選り取りみどりだろう。一番自分の希望に合った小説を……」

 そんなこと言われても、どれを選べばいいのだろう。

『お父さんもこの万年筆のおかげで、こんなに幸せになれたんだ。』

 父の言葉が頭をよぎる。でも、僕の小説は……。

 お父さん、僕とあなたでは作風が違うようです。

あとがき
 前サイトで、百作目に書いたショートショートです。記念の百作目なので、それをテーマにした話にすると自分に縛りを入れたので、中々書けなかったことを想いだします。

down

コメントする




プロフィール

真坂まえぞう

真坂まえぞう

さすらいのショートショート書きです。 [詳細]

ちょこっとのヒマツブシ

お奨めショートショート

恐竜絶滅
恐竜絶滅の原因を知るためにタイムマシンを作った地球歴史学者が……
アダムとイブ
神が、人類を一度滅ぼし、新しいアダムとイブを選んで一からやり直すことに決め……
名前
人の名前を覚えることが苦手な女性が……

お詫び

病気のため長らく放置しておりました。ドメイン一旦失効してしまい、皆様には本当にご迷惑をおかけしました。心からお詫び申し上げます。 何とか一年半ぶりに再開することができました。今後ともよろしくお願いいたします。

最近のコメント